「賢く、楽しい」ライフスタイルの提案

  ※ベンチマーキングとは、
   「他社の優れている点を学び、自社に活用する」
   という経営手法です。

   本コラムでは、高い業績をあげている企業の「ベストプラクティス」を探り、
   御社の企業経営・マネジメントに活用できる内容をお届けします。


 ●世界最大のインテリア・ショップ「IKEA(イケア)」

  連載第3回目では、グローバルに展開するインテリア・ショップの
  「IKEA(イケア)」(以下、イケア)について取り上げます。

  イケアというインテリア・ショップはご存じでしょうか?

  北欧のスウェーデン発祥で、ヨーロッパ・北米・アジア・オセアニアなど
  世界各国に出店しており、日本でも千葉・横浜・神戸・大阪・埼玉など
  多店舗展開しています。

  イケアのホームページをご覧いただければ、一度はその名前を
  目にしたことがあると気づく方がほとんどでしょう。

   【イケア ホームページ(日本語版)】
    http://www.ikea.com/jp/ja

  元々、スウェーデンのファミリー企業(家業)に過ぎなかったイケアが
  なぜグローバル企業として成功したのか。

  その成功要因を今回のコラムでは、
  「賢く、楽しい」ライフスタイルの提案という点に
  焦点を当ててご説明します。


 ●「賢く、楽しい」ライフスタイルの提案

  「賢く、楽しい」ライフスタイルとは、文字通り
  「賢く」と「楽しい」の2つの要素を含んだ
  ライフスタイルになります。

  「賢く」とは、無駄な出費はできるだけ抑えて、
  コストパフォーマンス(費用対効果)の高い買い物を
  したいと思う消費者の志向性です。

  一方の「楽しい」とは、より良い人生・幸せな暮らしを
  実現したいと思う消費者の志向性です。

  ※難しく考えずに、文字通り「賢く、楽しい」暮らしを
   したいという風に捉えていただいてかまいません。

  「賢く、楽しい」ライフスタイルに注目する理由としては
  「安いだけの商品が受け入れられる時代」では
  なくなったことが大きな要因です。

  単なる低価格商品は「安かろう、悪かろう」と
  消費者に敬遠される傾向が強まっており、
  また、コストパフォーマンスだけを考えた消費行動にも
  消費者は疲れてきているのが現状です。

  つまり、消費者は「賢く」消費をするだけでなく、
  その一歩先の「楽しい」消費を求め始めてきていることが
  最近の傾向として顕著になってきています。

  そして、その流れを捉えて家具の販売をモノの提案ではなく、
  ライフスタイルとして提案しているのが「イケア」です。

  では、具体的にイケアの事例をご説明していきます。


●イケアから学ぶ「賢く」

  イケアは徹底した低価格にこだわることで有名です。

  会社としても

  「私たちは形の美しい機能性に富んだ家具・インテリア商品を
   できる限り多くの人々が購入できる手ごろな価格で、
   品数豊富に提供したいのである」

  という目的を掲げ、「まず値段をデザインしろ」という方針の下、
  事業プロセス全体が構築されています。

  徹底した低価格を実現できているのは、
  既存の常識に囚われない、発想の転換にあります。

  では、具体的にどんな発想の転換が行われているのか。
  様々な取り組みの中で、今回は2点に絞ってお伝えします。


  1点目は、組み立て式の家具の販売です。

  かつては組み立てられた家具を店頭で
  消費者に提供することが常識でした。

  しかし、組み立てられた家具を全国各地の店舗に
  運送するのはトラック内のスペースの占有率が高まり、
  物流コストにおいて非効率な状態でした。

  また、保管するコストやお客様のお宅まで搬送するのに
  掛かる手間(人件費)も大きなモノでした。

  そこでイケアが導入したのは
  お客様が自宅で作る「組み立て式の家具」であり、
  フラットパック(平らな包装)による運送です。

  家具をできるだけ平らに包装することで
  必要なスペースが最小限に抑えられるので、^
  インテリアの運送費が大幅に節約できます。

  もし家具を分解しないでそのままの大きさで運んだら
  容量は6倍以上になります。

  また平らに包装することで手間が軽減され
  人件費コストの削減にもつながります。

  「できるだけ平らに」を徹底することが
  コスト競争力の一つの要因となっています。


  2点目は、「ドゥー・イット・ユアセルフ( DO IT YOURSELF)」です。

  「ドゥー・イット・ユアセルフ」とは、
  会社としてあらゆるサービスを省き、
  お客様自身で作業をしていただくことを意味します。

  「ホスピタリティ」という言葉が存在するほど
  店員によるサービスの質は一般的に重要視されています。

  しかし、イケアに行かれた方は分かるかと思いますが、
  実際にほとんどのサービスが省かれており、
  家具を購入する作業の80%はお客様が自分で行います。

  あれこれ見てまわり、探し出し、希望の商品を棚からおろし、
  レジへ運び、自分の車に積んで自宅に持って帰り、
  持ち帰った部品を組み立てて家具を完成させる。
  この一連の流れを全てお客様自身がやっているのです。

  徹底的なコスト削減(人件費・サービス費)による合理化を
  生産部門だけでなく、販売や運送においても推し進めた点が
  イケアのコスト競争力の優位性に大きな影響を与えています。

  ここにも良いモノを安く提供するための
  イケアの発想の転換を見ることが出来ます。



 ●イケアから学ぶ「楽しい」

  次に「楽しい」の側面について、お伝えします。

  ポイントとしては、イケアでは、消費者接点の入り口から出口まで
  一貫して「楽しい」ライフスタイルの提案を行っている点です。


  イケアでは、お客様との最初の接点(入り口)としてカタログがあります。

  このカタログによる「楽しい」ライフスタイル提案が
  お客様を実際の消費行動に移す仕掛けとして機能しており、
  イケアにとって、カタログは最も重要な市場開拓の武器であり
  最も効果的な宣伝媒体となっています。

  (ちなみに2005年8月に出たカタログは全世界で1億6000万部発行されており、
   宣伝雑誌としては世界最大の発行部数を誇ります)

  カタログには単に家具を載せるだけでなく、人間やペットなども登場し、
  「幸せな人生」「ワクワクする人生」を演出しており、
  「楽しい」ライフスタイルの提案を訴求しています。

  例えば…

   ●春の季節に、若い夫婦二人が
    「ベッドの中でとるおいしい朝ご飯、よい一日の始まり」、
    と訴えるビジュアル

   ●クリスマスの季節に、ワインを片手にした若者が
   「外は寒いんじゃない?こんな時はキャンドルの周りに集まって
    楽しい仲間と、おいしい料理を味わうのが一番だよ」
    と謳うビジュアル

  …など、「楽しい」ライフスタイルの提案をカタログで打ち出しています。

  ちなみに日本の2011年度版のカタログの表紙は
  「わが家はもっとワクワクできる」というコンセプトになっています。


  【日本の2011年度版のカタログ】
    http://onlinecatalogueasia.ikea.com/2011/ikea_catalogue/JP/


  住宅・不動産会社にとっても、広告づくりに活かせる点が多いので、
  ぜひご覧になってください。


  そして出口に関しては、「楽しい」を演出する店舗づくりになります。

  こちらは店舗の詳細設計をご説明するとキリがありませんので
  イケアのお客様の声をご紹介します。

  学生が「なぜイケアで買い物をするのか」をリサーチしたところ
  意外なことに返ってきた答えは、値段に関するものはほとんどありませんでした。

  そのお客様の答えをまとめたものが以下になります。

   「家具やアクセサリーの鮮やかな色彩に接すると、
    自分は若くてエキサイティングな人生を過ごしているような気持ちになる。

    さらに他の家具店とはあきらかに異なるウィットに
    富んだメッセージが伝わってくる。

    つまり、そこにおいてあるものだけが刺激的なのではなく、
    そこにただよう生活感覚が魅力的なのだ。

    イケアでショッピングをしていると、私はここにいる、
    私は人生のど真ん中にいる、そんな気がするのである」


  店舗設計については、色彩配置、生活感覚の疑似体験スペースなど
  様々な要素がありますが、おそらく言葉を尽くすより、
  イケアに足を運んで頂いた方が伝わるものが多いでしょう。

  ぜひ楽しい店舗設計についてイケアに足を運んでみてください。



 ●「賢く、楽しい」ライフスタイルの提案を実現するために

  上記の内容をまとめる、

   ・発想の転換による大胆なコストカット

   ・入り口から出口まで一貫したライフスタイルの提案

  の2つに取り組むことで、
  お客様への「賢く、楽しい」ライフスタイルの提案が実現します。

  発想の転換による大胆なコストカットに関しては
  自社で内製化している作業を思い切って外注したり、
  当然だと思っていた業務を削減することで生産性を高め
  他の業務に社員の時間を割くアプローチが挙げられます。

  一例に過ぎませんが、インターネットを通じて、
  お客様自身にプラン作成や色決めをしてもらい、
  注文住宅販売を行うこともその一つの事例です。

  また、展示場でお子様の面倒を見てもらう担当も社員ではなく、
  保育科の学生をアルバイトで雇うことで人件費を削減することも、
  アプローチの一つになります。

  入り口から出口までの「一貫したライフスタイルの提案」を
  住宅会社の事例に当てはめると、広告とHP、そして実際の現場で
  一貫して、ワクワクさせられるライフスタイルを提案することに当たります。

  それは広告のキャッチや写真、HPの文章や写真、
  そして実際のモデルハウスや現場での雰囲気づくりや
  トークの内容の全てにおける一貫性になります。

  また、商品開発における「賢く、楽しい」ライフスタイルの提案事例として
  コンパクトハウスや企画住宅の考え方がそれに当たります。

  「品質」を落とさずに「大きさ」を削ったコンパクトハウスや
  「自由度」を削り、その上で「子育てママのための家」
  「普通の家じゃ満足できな人のための家」など
  ライフスタイル提案型の企画住宅が売れているのは
  消費者の志向性と戦略がマッチした好事例と言えます


  「価格に無理しない、でも自分の望む生活にも妥協したくない」

  そんな消費者のマインドが、
  「賢く、楽しい」ライフスタイルとも重なってきます。


  御社の現在のご状況はいかがでしょうか?

  是非、イケアの「賢く、楽しい」ライフスタイルの提案について
  ベンチマークしていただければ幸いです。