サイゼリヤに学ぶ「価格競争力」の作り方

  ※ベンチマーキングとは、
   「他社の優れている点を学び、自社に活用する」という経営手法です。

   本コラムでは、高い業績をあげている企業の「ベストプラクティス」を探り、
   御社の企業経営・マネジメントに活用できる内容をお届けします。


 ●サイゼリヤに学ぶ「価格競争力」の作り方

  今回は、ファミリーレストランサイゼリヤを取り上げ
  「価格競争力」について考察してまいりたいと思います。

  サイゼリヤというレストランは関東圏内にお住まいの方で
  あればご利用されたり看板を見かけたことがあるかと思います。

  1968年にイタリア料理店として創業したサイゼリヤ
  低価格メニューの提供で飛躍的に店舗数を拡大、
  2000年には東証一部上場を果たしました。

  国内店舗数860店舗を有し、中国など海外にも
  約80店舗を展開しています。(2011年2月末現在)

  サイゼリヤの最大の強みは
  その圧倒的な価格競争力です。

  売れ筋No.1の299円・ミラノ風ドリアは
  1000回以上も改良し、その価格力で
  同社の核商品の一つとなっています。

  事業売上は(顧客数)×(顧客単価)×(購買頻度)で
  算出されますが、
  飲食業の事業売上に大きな影響を及ぼすのは
  (顧客数)の増減になります。

  そのため、飲食業界では(顧客数)を増やすことに
  直結する価格競争力の作り方が発展しました。
  その代表的な企業がサイゼリヤです。

  単なる低価格、安売りでは
  「安かろう、悪かろう」と顧客が離れていく時代です。
  どのように顧客に提供する価値を高めつつ
  最小限の価格でご購入いただけるようにするのか。

  その価格競争力の作り方についてお伝えしていきます。


 ●お値打ち感の公式

  お値打ち感とは、特定の商品について
  「お客様が払ってもいいと思う価格(Willing To Pay:以下WTP)」
  より「実価格」が低い時に生じます。

  たとえば、120円のジュースがスーパーで70円で販売されていれば
  消費者は50円分の「お値打ち感」を感じます。

  1万円相当のフルコースディナーを
  5000円で提供してくれるレストランがあれば
  5000円分の「お値打ち感」を感じます。


  つまり、「お値打ち感」とは
 「お客様が払ってもいいと思う価格:WTP」−「実価格」
  の公式で表すことができ、そのギャップが大きいほど
  「お値打ち感」は最大化し、価格競争力が創出されます。

  その公式から考えると、
  価格競争力を上げるために「実価格」を下げても
 「お客様が払ってもいいと思う価格:WTP」、つまり商品の品質や価値も
  一緒に下げてしまっては、ギャップが少なくなり
  お値打ち感は大きくなりません。

  では、サイゼリヤがどのように
  お値打ち感を最大化しているのかを
  具体的には説明していきます。


 ●真の生産性向上とは

  サイゼリヤが価格競争力を創出するために
  重要視しているのが、商品価値を下げるのではなく、
  「無駄を無くす」ことを徹底的に突き詰めていくことです。

  その「無駄を無くす」という発想は、
  大きく2つの方向性に分かれます。

  その1つが、絞り込みによる核商品の開発であり、
  もう1つが、細かな改善活動の積み上げです。

  順にご説明していきます。

  1つ目はもっとも効果的な方法で、
  何かを改善しようと考えるのではなく
  今まで幅広くやっていたこをやめてしまうことです。

  飲食店ならメニュー数を絞ることが
  一番無駄を減らせます。
  同時に、自分の店にしか出せない
  という強いメニューを作ることが重要です。

  サイゼリヤであれば299円の「ミラノ風ドリア」が
  それに当たります。

  絞り込んで商品を提供することで仕入れロスが減り、
  作業効率も良くなる。
  無駄を省くので利益もドンドン出る。
  そうなってきたら利益の一部は、
  お客様に還元すべきだから実価格を値下げする。
  するとさらにお客様に喜ばれて顧客数が増える。

  決して初めに安売りありきではなく、
  「無駄を無くす」という発想からスタートしていることがポイントです。

  逆に価格が安くても価値を伴わない商品は一時的に注目されることは
  あっても長続きすることはありません。

  では、住宅業界で絞り込みによる核商品の開発は
  どのように活用できるか?

  たとえば注文住宅の自由設計を、もっともお客様が喜ぶ標準パターンに
  絞り込んで提案したり、もしくは規格が決まっている
  コンパクトハウスなどの商品を開発することが挙げられます。


  2つめの細かな改善活動の積み上げですが
  こちらは業務の流れを改善することは
  もちろん、ビジネス全体の流れを改善することも含まれます。

  サイゼリヤの場合、原材料費を下げずに実価格を下げていくために
  製造工程の川上から川下までの全行程を自社で管理しています。

  具体的には、野菜や米は福島県の自社農場で育成・収穫、
  ハンバーグのパテやホワイトソースはオーストラリアの自社工場で
  地元食材を使用して生産など、食材の多くを自社で製造しています。
  それらの食材をいったん「カミサリー(工場)」に集めて調理し
  各店舗に搬送しているのです。

  イメージとしてはハウスメーカー
  「生産から販売まで一貫して手がける生販一体」と同じです。

  自社のビジネスを垂直統合することでビジネスの
  工程全体から無駄を省き、ビジネス全体のコストを削っています。

  たとえば、サイゼリヤでは「カミサリー(工場)」で食材を
  加工する際に、一番最初の工程での品質チェックを徹底しています。
  最終的に不良品になってしまうものを何度も加工してしまうコストが
  省けますし、品質も初期段階で一定水準に保つことができます。

  また、業務の改善でいえば、
  業務の効率的な流れを開発して標準パターンにしたり
  効率化を図れるツールを導入するなどがあります。


●異業種のノウハウを自社に移植する

  今回は「価格競争力」というテーマで
  サイゼリヤの事例をお伝えしてきましたが
  いかがでしたでしょうか。

  いくつか自社で活用できる点を
  発見して頂いたかもしれませんし、
  すでに自社で取り組んでいることもあるかもしれません。

  コンパクトハウスや企画住宅など、絞り込みによる商品開発
  集客コストが低く、歩留まりが高い紹介営業の活動
  自社の勝ちパターンに基づいた営業手法の標準化

  ・・・他にも様々な取り組みがあるかと思いますので
  ぜひ自社に合った方法を検討して頂ければと存じます。

  単なる安売りではなく、
  「無駄なコストを削って利益をお客様に還元する」
  という発想で自社の価格競争力を考え直す
  きっかけとなれば幸いでございます。


  (※参考文献:『おいしいから売れるのではない
          売れているのがおいしい料理だ』
              :日経BP社 正垣泰彦 著)


 ●今回のベンチマーク実践(実践期限:1日間)

  ・自社の経営活動全般で、お客様に提供する価値を下げずに
   無駄を省ける工程や作業がないか、思い浮かんだもの書き出す

  ・書き出した項目から実現可能なものに○をつけ
   実施するスケジューリングを行う