ザッポスに学ぶ「口コミ・リピート」の起こし方

  ※ベンチマーキングとは、
   「他社の優れている点を学び、自社に活用する」という経営手法です。

   本コラムでは、高い業績をあげている企業の「ベストプラクティス」を探り、
   御社の企業経営・マネジメントに活用できる内容をお届けします。


 ●ザッポスに学ぶ「口コミ・リピート」の起こし方

  今回は、米国の著名企業である「ザッポス」という会社を
  取り上げさせていただきます。

  「ザッポスの奇跡」「ザッポスの伝説」などの書籍がベストセラーとなり、
  日本でも話題になりましたので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。

  ザッポスは、インターネット上で靴や洋服などを販売する
  「オンライン小売会社」です。
  (本をインターネットで販売するアマゾンの
   「靴屋版」だと思っていただければ大丈夫です。)

  ザッポスは1999年に創業され、米国最大のオンライン小売会社に成長し、
  2009年11月に12億ドル(約1000億円)の評価額でアマゾン・ドットコムに
  売却されました。
  (米国では創業会社を売却し、莫大な資産を手に入れることは
   一般的な成功ストーリーです。)

  ザッポスの名が、世の中に知れ渡ったのは、
  顧客を感動満足させる「カスタマーサービス」にあります。

  例えば、「カスタマーサービス」にまつわるこんなエピソードがあります。


  ある女性が病床の母親のためにザッポスで何足か靴を買ってあげたが、
  母親の病状が悪化して亡くなってしまいました。

  悲しみがさめやらぬなか、ザッポスから靴の具合を尋ねるEメールが届きました。
  母親が亡くなってしまったので靴を返品したいこと、
  返品期限を過ぎてしまったかもしれないが、
  もう少し待ってもらいたいことをメール返信したところ、
  すぐに「宅配の集荷サービスを送ります」という反応がありました。

  ザッポスでは、返品時も送料無料サービスを行っていますが、
  通常は購入者が集荷場まで靴を持っていかなければなりません。

  規則を曲げて自宅への集荷を手配してくれたことに女性は驚き、感謝しました。

  しかし、話はそこで終わりません。

  翌日、女性の玄関先にお悔やみの花束が届けられ、
  ザッポスからのメッセージカードが添えられていたそうです。

  女性は、自身の体験をブログに書きました。

  「感極まって、どっと涙がこぼれました。
   人の親切にはもとから弱い私ですが、
   今まで人様からしてもらったことの中で、
   これ以上に心を打たれたことを思い出せません」

  ブログの最後は以下のように締めくくられていました。
  「もしネットで靴を買うのだったら、ザッポスから買うことをお勧めします」(※




 ●なぜカスタマーサービスに力を入れるのか

  ザッポスは自らを「靴を売ることになった“顧客サービス企業”」と
  称するほどカスタマーサービスを大切にすることで知られます。

  では、なぜそこまで時間とコストを掛けて
  カスタマーサービスに力を入れるのでしょうか。

  その理由は、「カスタマーサービス費用は、マーケティング費用」と
  ザッポスが捉えているからです。

  他の企業が広告宣伝費に予算を掛ける中、
  ザッポスは他社があまり予算を掛けないカスタマーサービス
  予算を掛けることで「顧客感動満足」を実現しています。

  この他社と異なる戦略の結果、ザッポスの「ブランド構築」
  「口コミ発生」「リピート購買」などのメリットに繋がっています。

  実は、小さいけれども地域の顧客から愛される
  住宅会社にも同じような傾向があります。

  契約前はもちろんですが、契約後のフォローや
  アフターサービス等に力を入れることで顧客感動満足を実現し、
  紹介受注やメンテナンスリフォームの受注に繋げています。
  (具体的には、お引き渡しムービーの贈呈、お客様感謝祭の定期開催など)

  では、ザッポスではどのように
  カスタマーサービスに力を入れているのか。

  その具体例を参考にしながら、
  ザッポス流「口コミ・リピート」の起こし方についてお伝え致します。



 ●コストの最小化ではなく、顧客感動満足の最大化

  ザッポスの特異な点として
  コールセンターの取り組みをご紹介します。

  ザッポスは、コールセンターでのカスタマーサービス
  コストをかけています。

  他のオンライン小売り会社が、生産性向上のために
  ホームページ上に電話番号を載せない、
  もしくは発見しづらくすることに対して、
  ザッポスではトップ画面に大きくコールセンターの
  電話番号(フリーダイヤル)を表示させています。

  また、他のコールセンターでは
  オペレータの評価を「平均処理時間」で判断します。
  つまり、1日にどれだけ電話をさばけたか、
  どれだけ短く電話を切れたかがオペレータに求められます。

  一方、ザッポスでは「平均処理時間」を導入せずに
  「顧客の期待以上の対応をすること」に評価軸を
  設定し、その評価軸に沿って自由に考え、行動する裁量権
  オペレータにはあります。
  (過去最長の電話時間は、なんと6時間だったそうです!)

  通常であれば、長時間に亘り電話対応することは大きなコストですし、
  実際にそんな顧客ばかりではオペレータを何人雇っても足りません。

  それでもザッポスがコールセンターにコストを割いている理由は
  問い合わせの電話を、『最高のカスタマーサービスと顧客体験』を
  作る機会として捉えているからです。

  ザッポスの元代表曰く、

  「近年では『ソーシャル・メディア』や『統合マーケティング』が
   とても話題になっています。
   かたや私たちは、魅力的でもなく、ローテクに聞こえるかもしれませんが、
   電話はブランディングに最適なツールの一つだと信じています。
   5分ないし、10分の間、顧客の注意をこちらに向けさせられると同時に、
   ここできちんと対応すれば、顧客はこの体験をいつまでも記憶にとどめ、
   しかも友人たちに話してくれることがわかったのです」(※)


  つまり、コールセンターで重要視されているのは
  「コストの最小化」ではなく、「顧客感動の最大化」という
  ブランディングの視点であり、そのための必要経費、
  マーケティング費用としてコールセンターのコストを捉えているのです。


  また、コールセンター以外にもカスタマーサービスに関する
  様々な取り組みをザッボスでは行っています。

  例えば、注文した靴は「365日間返品無料」であり、
  お届けと返品の配送料は原則無料です。

  倉庫も24時間体制で稼働する仕組みを採用し、
  迅速に商品を届けられる体制をとっています。

  ロイヤリティの高いリピート顧客には、翌日配達にして
  驚かせるなど、様々な工夫がされています。

  それらの一つ一つの取り組みが、顧客感動満足を生み
  口コミやリピートにつながっています。



 ●最も大切なのは「経営者の意思決定」

  具体的な事例を見てきましたが、いかがでしょうか。

  これらの取り組みの根底にあるのは、
  「サービスを通して『ワオ!』という驚きの体験を届ける」
  という顧客感動満足の企業文化・コアバリューがあるからです。

  それが口コミ・リピートに繋がり、
  ザッポスのブランドを構築し
  世界から注目を浴びる企業へさせたのです。


  今回は米国のオンライン小売り会社の事例を取り上げましたが、
  日本の住宅会社でも、彼らの視点は応用することができます。

  初回接客から契約後のフォローや
  お引き渡し後のアフターサービスなどで、
  顧客感動満足の仕組みを整えることで
  紹介受注やメンテナンス・リフォーム受注はもちろん
  会社自体のブランド構築に繋がっていきます。

  ただ最も大切なことは、実は「経営者の意思決定」にあります。

  カスタマーサービス、特に住宅会社でアフターサービスに
  注力する場合、時間や費用などのコストが発生してしまいます。

  そのコストを「非効率な出費と捉え、抑制するのか」
  「顧客満足を実現するマーケティング費用として捉えるか」
  経営者としての『意思決定・意識の切り替え』が必要となります。

  そして、その意思決定ができるかどうかが、
  「顧客感動満足の企業文化・コアバリューを持つ組織」の
  構築を成功させるか否かの分かれ道にもなってきます。



  新設着工数が減少するこれからの時代、
  紹介や口コミ、メンテナンスリフォーム、
  長期的には大型リフォームや売却仲介などまで
  顧客と関わることが求められていきます。

  実際にあるハウスメーカーでは
  住宅購入後のアフターマーケットで330億円の
  総売上を実現している会社もあります。

  御社ではいかがでしょうか?

  ぜひ今後の御社の事業戦略を構築する上で
  カスタマーサービスの考え方・取り組みを
  ベンチマークして頂ければと存じます。

  (※出典:『ザッポス伝説』:ダイヤモンド社 トニー・シェイ著)


   ※どれだけ自社の足下に売上が眠っているかを
    把握するためにも一度、自社のアフターマーケットの
    市場規模を算出することをお勧めします。


   アフターマーケットからの受注への取り組みに、
   ご関心がある方は「住宅不動産フォーラム2011秋」で行った
   『新CRM戦略〜アフターの紹介発掘、リフォーム受注の実現』で
   ご紹介させていただいた事例が参考になると思います。

   ご関心がある方は是非、お気軽にお問い合わせ下さい。
   フォーラムのレジュメをお送りさせていただきます。



 ●今回のベンチマーク実践(実践期限:1日間)

  ・自社のカスタマーサービス(接客や契約後のアフターサービス)に
   社員共通の指針が設定されているか確認する。
   設定されているとしたら、どのようなものかを書き出す。

  ・カスタマーサービスの注力による紹介発掘、リフォーム受注の強化、
   自社のブランド構築にどのように取り組むべきか
   経営幹部で話し合う日時をスケジューリングする。