社会起業家に学ぶ「応援される会社のメカニズム」(前編)

  ※ベンチマーキングとは、
   「他社の優れている点を学び、自社に活用する」という経営手法です。

   本コラムでは、高い業績をあげている企業の「ベストプラクティス」を探り、
   御社の企業経営・マネジメントに活用できる内容をお届けします。


 ●社会起業家に学ぶ「応援される会社のメカニズム」(前編)

  今回のコラムでは、注目度が年々高まっている
  「社会起業家」について取り上げます。

  ※社会起業家とは、社会の課題を、ビジネスの手法により
   解決しようとする事業家のことを指します。

  企業のCSR活動など、社会貢献活動の重要性が高まっており
  特に東日本大震災後、その傾向はますます強まっています。

  そこで今回のコラムでは、社会起業家の取り組みをご紹介しながら
  “お客様や社会から応援される会社のメカニズム”について
  前編・後編と2回に分けてお伝えしたいと思います。


  前編では、

   「社会起業家とは何なのか?」

   「なぜ社会起業家をベンチマーキングしないと生き残れないのか?」

   という時代背景をご説明します。

  後編では、

   「自社の経営に社会性、社会貢献の要素をどのように取り入れるか」

   「結果的にどのように見込み客を加速度的に獲得するのか」

   という点を、企業事例を交えてお伝えしていきます。

  社会起業家を単なるキレイ事としてお伝えするのではなく
  新しいマーケティングの視点としてお伝えしていきます。

  また、高度成長社会から低成長社会、そして本質的な意味で
  成熟化する社会に移行する、大きな時代のうねりの中で
  企業がどのように環境適応したり、進化していく必要があるのか
  という点を踏まえてお読み頂ければ幸いです。


社会起業家とは?

  発展途上国貧困層の問題や、環境破壊問題など
  かつてはボランティアやNGONPOが取り組んでいた
  社会問題のテーマに対して
  近年、ビジネスとして利益を上げながら問題を解決
  していく起業家、事業家が増えております。

  その人たちを「社会起業家」と呼びます。

  一例を挙げると
  ホームレスの自立を促すために支援するビジネスがあります。

  ホームレスの人の救済(チャリティ)ではなく、
  仕事を提供し自立を応援するビジネスとして設計されています。

  それがホームレスの人が販売する
  「ビック・イシュー」という雑誌ですが
  ご存じでいらっしゃいますでしょうか。

  都市部だとホームレスが「ビックイシュー」を手に掲げ
  1誌300円で販売しております。
  (そのうち160円がホームレスの収入になります)

  【ビックイシュー詳細】
   http://www.bigissue.jp/index.html


  また、身近なところだと「病児保育」という社会問題を
  ビジネステーマとした「フローレンス」という社会企業もあります。

  働くママにとって、子供の急病は仕事の調整が必要となり、
  会社やお客様に迷惑や負担を掛けるため、大きな悩み事の一つです。

  実際に子供の病気で仕事を休むということが頻発し、
  辞めざるを得ない状況に陥るケースや解雇となる例も沢山あります。
  (もちろん企業にとっては止むを得ないことだと思います)

  そんな「病児保育」の問題を解決するために、フローレンスでは
  病児保育の課金モデルを従来の「従量制課金」ではなく、
  低価格の「会費制」を採用することで継続的なビジネスとして成立させました。

  【フローレンス代表の著書】
   『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』
    http://amzn.to/tO6ekk


  特筆すべきことは、これらのビジネスを、
  大手企業の幹部出身者やコンサルティング会社の
  戦略コンサルタントなど、ビジネスの第一線で
  活躍している人たちが実践し、収益を上げていることです。

  ※ちなみに、2010年に全米文系学生・就職先人気ランキングで
   1位となったのは、グーグルやアップルをおさえて
   「ティーチ・フォー・アメリカ(Teach For America、TFA)」という
   社会起業家が作った団体であり、
   すでに大きなムーブメントになっています。


  とはいえ、
  「社会貢献がビジネスになるのか?」
  「事業で儲けて税金を納めることが社会貢献だ」
  「ボランティアは会社を大きくしてから老後にするべきだ」
  などの感想をお持ちの方も多いでしょうし
  実際にそのような批判を受けることもあるそうです。

  ただ、社会貢献に対する消費者の関心は
  東日本大震災を通じて高まっていることも
  ご理解いただけると思います。

  また、数値データを見ていくと
  社会問題を解決する「社会的企業」「ソーシャルビジネス」と
  呼ばれる事業の市場規模は、
  日本で「2400億円」(2008年、経済産業省調べ)と推定されます。

  この「2400億円」は住宅業界と比べると小さな市場に見えますが
  他の市場・業界と比較すると
   ・アニメの市場規模「2290億円」(2010年)
   ・ゴルフ場業界の業界規模「2465億円」(2010年)、
   ・2015年の電子書籍コンテンツの市場規模の予測「2400億円」(野村総合研究所
調べ)
  であることから
  アニメや電子書籍と同じインパクトを持った市場規模と
  見ることもできます。

  ※ちなみに、社会起業家の発祥の地であるイギリスは
   市場規模「3.6兆円」と日本の10倍以上にのぼる。


●なぜ社会貢献の重要度が高まっているのか?

  重要度が高まっている背景として、
  大きく2つの変化があります。

  1つは、消費者の「幸せ観」の変化。

  「自分だけが満たされても幸せになれない」
  「大切な人とのつながり・絆を大切にしたい」
  「社会や世界がより良くなることが重要だと思う」
  という幸せ観が消費者の間で、特に若い世代を中心に
  広まってきていることです。

  その理由は
  自社の時価総額を高めることに邁進したIT企業の社長が失脚した事件や
  金融システムによる錬金術の金融バブルがはじけたリーマンショックなどを
  目の当たりにしてきたことも一因です。

  「お金儲けだけが、人生の成功ではない」
  「私利私欲を追求するのって、かっこよくない」
  という感情、価値観が広まりつつあります。

  それを最も象徴するのが、東日本大震災後の被災地への支援です。
  日本全体が「被災地のために自分ができることをしたい」
  というムードになり、数多くの企業が義援金や物資などの支援を
  行い、テレビCMも被災地の支援一色になりました。

  また、東日本大震災後の復興支援に熱心に取り組む企業に対して、
  「約70%」の回答者が好意的な行動をとりたいと考えているという
  アンケート結果もあり、
  支援に熱心な企業の「製品やサービスを利用したい」という意向を
  示した回答者は「60.2%」もいます。
  (富士通総研調べ)

  つまり、「社会貢献」を商品・サービスの購入における
  判断軸として採用する傾向が強まってきています。


  2つめの変化は、インターネットの進化によるもの。

  今まではテレビや雑誌などのマスメディアによって
  消費活動のトレンド・流行を作り上げてきました。

  しかし、フェイスブックツイッターなどに代表される
  口コミ・メディアの進化により、共感性の高い物事の
  流通スピード(世の中に広まるスピード)が
  圧倒的に高まったことが挙げられます。

  つまり、企業や政府がマスメディアによって
  消費者をコントロールできた時代から
  逆に口コミ・メディアによって消費者が
  企業や政府を丸裸にできる時代になりました。

  消費者から悪い口コミを流される会社はあっという間に広まり、
  逆に、消費者が「いいね」と共感する会社も
  消費者の間で加速度的に広まっていきます。

  この加速度的に広まっていく口コミのスピードに
  「応援される会社のメカニズム」の秘密は隠されています。


●世の中の問題を語り、その解決策を示すこと

  上記のような背景を踏まえて
  「社会貢献の要素を自社の経営にどのように取り入れるか」
  「どのように応援される会社へと進化していくのか」
  それらを次回のコラムにて、企業事例を交えて
  お伝えします。

  先に要点だけをお伝えすると、ポイントは
  「世の中の問題を語り(定義し)、その解決策を示すこと」
  になります。

  たとえば、タウンキッチンという東京にある会社は
  「食事をすることの本当の豊かさが足りない」という問題を
  解決するために、地元の主婦に有給で総菜を作ってもらい
  それを地元の学生や忙しいサラリーマンに有料で
  「おすそわけ」する店舗を運営しています。

  タウンキッチンの代表は会社を立ち上げた理由を
  次のように語ります。


   「サラリーマン時代は一人暮らしをしていたのですが、
    やはり夜遅くまで仕事をしていると、食べるものがなくて。
    もちろん遅くまで開いているチェーン店はいくらでも
    あるのですが何かが足りない。

    それは栄養バランスとかオーガニックとかそういうこと
    ではなくて、食べることによって得られる“心の豊かさ”
    だと思ったんです。

    もう物の豊かさを追い求める時代じゃないな、と。
    それに関わっていた食ビジネスの価格競争に
    勝ち残るために合理化・効率化を追求した
    システムにも疑問を感じていました。

    食というよりも社会の在り方に対する違和感です。」
    (「メトロミニッツ」 No.108 インタビューより)


  そのような社会の在り方に対する疑問を問題として提示し、
  地元のシニア層の主婦の「おふくろの味」と「おすそわけ」の
  交流の場を提供することで解決策を示しています。

  それらの活動が共感を呼び、地元のお客様を呼び込んだり
  メディアからも注目され、認知度が高まり
  見込み客が加速度的に増えていくという
  「応援される会社のメカニズム」を体現しています。

  次回は、その「応援される会社のメカニズム」を
  上手に活用している企業事例をお伝え致します。
  ぜひ楽しみにして頂ければと存じます。


●今回のまとめ

  ・社会起業家や社会貢献への注目度が高まっており
   単なる流行ではなく、時代の変化として
   経営上、無視できないレベルになってきている。

  ・大きな社会問題だけでなく、身近な問題に関しても
   「世の中の問題を語り、解決策を示すこと」
   により、消費者からの共感性が高まり
   自社を応援してくれるお客様、見込み客が
   加速度的に増えていく。