ストーリーが社員を育てる

※ベンチマーキングとは、
「他社の優れている点を学び、自社に活用する」
という経営手法です。

本コラムでは、高い業績をあげている企業の「ベストプラクティス」を探り、
御社の企業経営・マネジメントに活用できる内容をお届けします。


ウォルト・ディズニー社の人財育成をベンチマーキングする

新連載の第1回目は、あの「ディズニー・ランド」を
世界各国で展開する“ウォルト・ディズニー社”についてです。

ウォルト・ディズニー社をベンチマーキングする際には
様々なポイントがありますが、今回は最近の事例を通じて、
ウォルト・ディズニー社の「人財育成手法」についてご説明します。


●なぜアルバイト社員が自発的に考え、イキイキと働いているのか

3月11日の東日本大震災の際に、千葉県のディズニーランドには
多くのお客様がいらっしゃり、不安にふるえていました。

混乱するお客様が多くいる中、ディズニー・ランドの
キャスト(スタッフ)は動揺することなく、
一人一人が自発的に「ゲスト(お客様)の安全・安心のため」に
率先して様々な施策を打っていました。

そして後日、その時のディズニーランドのキャストの
対応の素晴らしさがTV番組で取り上げられました。

たとえば・・・

・売り物のダッフィーのぬいぐるみを、防災頭巾代わりとして
  ゲスト(お客様)に配ることを判断したキャスト

・園内で避難しているところ雨が降ってきたため
普段では絶対に外に出さない段ボールやビニール袋を
雨よけ、雨がっぱとして提供したキャスト

・揺れるシャンデリアの下にゲストが立たないように
自らシャンデリアの下に立ち、
「私はシャンデリアの妖精なので、皆さん安心してください」
とゲストたちを気遣かったキャスト

これらの判断は、全てアルバイトのキャストが
自発的に考え、取り組んだことです。

なぜ1000年に1度と言われる非常事態の中、
このような自主的な取り組みが出来たのでしょうか。

理由としては複数挙げられ、

・社員が自発的に考え、行動する組織風土が醸成されていた

・大地震を想定した災害訓練を1年に180回行う危機管理対策
 (災害訓練によりキャストが慌てずに対応することができた)

様々なベンチマーキングのポイントがありますが、
今回のコラムでは、少し違ったポイントについてお伝えします。

そのポイントは、「ストーリー(物語)」です。


●ストーリーが社員を育てる

多くの会社様において、想いを統一するために
「ビジョン・ミッション・経営理念」を策定したり、
社員の自発性を引き出し、組織力を高めるために
「権限委譲」などに取り組んでいらっしゃると思います。

しかし、ディズニーランドのキャスト(スタッフ)のように全員が
自発的に考え、行動している会社様は、決して多くはないでしょう。

なぜディズニーランドのキャストは、あんなに自発的に、
イキイキと自らの業務に取り組むのでしょうか。

その一つが、ディズニーランドのキャストの中に
蓄積されている「ストーリー(物語)」にあります。

ストーリーと言っても、ディズニー映画のような
おとぎ話のことでも、面白可笑しいお話でもありません。


ストーリーとは、「キャストによる取り組み事例」のことを指します。


一例を挙げると…

・アイスクリームを落としてしまったゲスト(お客様)に
無償で同じものを提供し、ゲストに楽しい気持ちのまま一日過ごしていただいた

・メインストリートには、なぜ特別な窓があるのかなど、
パークにある興味深いものをご家族に説明して喜んでもらえた

・「重い病気に苦しんでいる子供のためのにサインをしてほしい」と
頼まれたミッキーマウスは、サイン帳にサインしただけでなく、
その子にあてて長い手紙を書き、顧客が感動して涙を流した

など、キャストの自発的な行動が生み出した感動ストーリーになります。


キャストは、研修時から先輩達の「数多くの取り組み事例」に触れ、
研修後は自らも率先してストーリー(感動)を作っていくようになっていきます。
そして、この連鎖がディズニーランドを「魔法の国」にしているのです。

今回の大震災時の各々の取り組みも、お客様の不安を踏まえて、
キャスト自身が自然とストーリー(感動)を作り出した結果でした。

このストーリー(感動)を作る組織体質こそが、
キャストが自発的にイキイキと働き続ける燃料(エネルギー)となっています。



●会社でストーリーを語ろう

今回のコラムのポイントは、「ストーリーが語られる環境づくり」にあります。

ウォルト・ディズニー社では、研修・現場・ミーティングなどの至る所で
キャスト(スタッフ)のストーリーが語られる環境があります。

キャストによる感動の取り組み事例が、しっかりと共有され、
社内や仲間の中で注目を浴びるという場面を作ることで、
取り組んだ本人も、周りのスタッフもモチベーションを高めることができます。

御社では、顧客を感動させたストーリーは、現場で語られているでしょうか?

採用時の説明会や会社の研修で、創業から現在までのストーリーは
語られているでしょうか?

業績向上を理由に、売上と目標達成の話だけになってはいないでしょうか?

もちろん 売上と目標達成の話は不可欠ですが
目標達成に向けて社員が自ら考え、率先して行動に移すための
モチベーションも必要になります。

ぜひ仕事の燃料(エネルギー)を生み出すストーリーの活用を
ベンチマーキングしてください。